カランメソッドとは?
皆さんは、「カランメソッド」という学習法を聞いたことがあるでしょうか。
英会話を学んでいる方は、耳にしたことがあるかもしれません。
カランメソッドとは、決まった言い方を繰り返して練習することで、英語の文法を徹底的に頭に入れ込む、スピーキングのトレーニング方法です。
短期間で流暢な発話ができるようになるメソッドとして、よく知られています。
この記事では、そんなカランメソッドの特徴や、学習の効果、学ぶ際のポイントをご説明します。
独特な学習法であるだけに、人によっては「効果あり」、「効果なし」、と差が出ることも。
実際に学ぶ際にはどのように学習すれば効果が実感できるのか、どんな人に向いているのか、あるいは「効果なし」と感じてしまう原因について、くわしくご紹介していきます。
カランメソッドの特徴
カランメソッドは、講師の質問に即座に答えることで、文法や発音を矯正する学習法のことです。
ポイントは、この「即座に答える」という特徴です。スピーキングをする際に、「日本語で考えた内容を英語に翻訳する」のではなく、初めから英語で思考する、いわゆる「英語脳」を鍛えるのがカランメソッドです。
レッスンのやり方が独特であるだけに、人によっては苦手に感じますが、実際に効果を実感する人がいるからこそ支持されてもいる方法です。
カランメソッドのレッスンは、他にも次のような特徴があります。
カランメソッドの特徴
- 短期間で効果を出すため、レッスン時間内に集中して練習する
- レッスンは全て英語
- 何度も同じ言い回しや単語を反復する
- 正確な文法での発言を求める
「話す」ことに慣れていない英語学習者が多い?
突然ですが、日本人は「英語が話せない」といわれるイメージが強いですよね。
実際に、学習者の皆さんの中にも、「いまいち自分の実力が実感できない…。」という人がいるかもしれません。
しかし、実はそれほど「英語ができない」というわけではないのです。
TOEIC公式サイトで調べてみると、第226回(2017年12月)のTOEICテスト受験者87,624人の平均スコアは587.2点。かりにリスニングパートとリーディングパートを293点ずつ取ったとすると、目安の英語力は以下のようになります。
つまり、平均的な受験者は
・基本的な文法は理解でき、言い換えがあっても意味を捉えられる
・中級レベルの英単語が理解できる
・相手がゆっくり話してくれたら、聞き取ることができる
以上のような、日常のコミュニケーションがとれる英語力の素地を、十分持ち合わせていることがわかります。
しかしながら、TOEICのスコアを十分に取れていても、英語でのコミュニケーションに自信のない方は多くいらっしゃいます。それはなぜでしょうか?
理由の一つとして、「話す」ことに慣れていないということが挙げられます。
英文法は正しく理解していても、「発言することに慣れていない」「とっさには言葉が出てこない」ため、結果として「英語が話せない」というわけです。
非ネイティブの学習者は、特に初心者であれば英語を母国語に翻訳することが多いのですが、それでは意味の理解や発話にどうしても時間がかかってしまいます。
一方で、カランメソッドは英語を英語のまま理解することに焦点を当て、短期間でのスピーキング力向上を目指すトレーニング方法となっています。
つまりカランメソッドは、英語学習者に多く見られる「話すことに慣れていない」という課題感に対して、効果的な学習法であるといえます。
カランメソッドの学習効果
イギリスのロビン・カラン氏に考案されたことから、「カランメソッド」と言われています。
1959〜60年に考案されたこの学習法ですが、現代においても、十分に英語力をレベルアップさせる効果があることが、一部の研究では実証されているようです。
カランメソッドの学習効果の実証研究
明治大学では、学生向けにカランメソッドを導入し、その効果を研究しています。
Improving Oral Proficiency through the Callan Method(宍戸、坂本、半田、2017)は、カランメソッドを応用することで学生のオーラルイングリッシュ能力の改善ができたと述べています。
大学生を対象にカランメソッド を用いて実験した結果、以下のような効果がみられています。
- 特に語彙力の点で能力が向上
- 被験者の心理的な満足感、モチベーションも向上
何度か実験は実施されていますが、一度目の実験に関して紹介すると
期間:3ヶ月間
人数:大学生21人
方法:QQイングリッシュの講師とのSkypeによる授業
以上の条件で検証した結果、実験前後のTOEICのスコアが最低点数、最高点数共にアップしました。
最低:275→545
最高:810→850
3ヶ月という短い期間の中で、学生の実力が明らかにレベルアップしていることが分かります。また、学生たち自身も手ごたえを実感しているとのことです。
詳しい研究成果は、以下のページからご覧いただけます。
カランメソッドのレッスン内容
ここからは、具体的なカランメソッドのレッスン内容についてご紹介します。
特徴的なスピーキングレッスン
カランメソッドのレッスンでは、テキストを読むリーディング、ディクテーションも行い、体系的な学習をしますが、有名なのはスピーキングです。
カランメソッドのスピーキングは、「正しく」「速く」「繰り返し」発言を行うのが特徴的です。先ほどにも述べたとおり、生徒が自由に解答を考える「会話」ではなく、決まった言い方を繰り返して練習することで英語の文法を徹底的に頭に叩き込むレッスンとなります。
「キャッチボール」の英会話、「テニス」のカランメソッド
よく「会話は言葉のキャッチボール」と例えられます。ピッチャーは投げられたボールを自分の取りやすい形で受け取り、また自分が投げやすいスタイルとタイミングで投げ返します。
自然な会話は、このような言葉のやりとりなので「キャッチボール」に例えられるのですね。
一方、カランメソッドでのスピーキングを例えるなら、来た球をすぐ打ち返す「テニス」や「卓球」のイメージが近いかもしれません。
カランメソッドは正しい文法で答える反射力や瞬発力を高めるためのトレーニングで、自由な会話を楽しむ英会話授業とは学習のやり方が異なっています。
飛んできたボールをすぐさま打ち返すかのように、瞬時に返答するのです。
そして、合っていても間違っていても、スムーズに返答できるまで何度も繰り返します。
常に高いレベルの英文を求めるスパルタ式なところは厳しさを感じるかもしれませんが、その分効果があるのです。
ポイント:
・正確な文法や発音が身につく
・体系的な学習ができる
・反射的に英語を話す力がつく
・自然な会話で行う英会話とはやり方が異なる
・何度も繰り返すのでややハード
レッスンの基本の流れ
- 講師が単語やフレーズを提示する
- 提示したものを使った質問文を講師が尋ねる
- 生徒はその単語やフレーズを使って回答する
具体例をみてみましょう。(実際のレッスンとは異なります)
例:
講師:Pen. Pencil. Yes, it is. It’s. This is. No. It isn’t.
まずはじめに、例えば”Pen”、”Pencil”といった単語、あるいは” Yes, it is.” “No, it is not.”のような回答の頭になりうるフレーズを講師が提示します。
続けて、以下のような質問をします。
講師:Is this a pen?
それに続いて、生徒がこのように答えます。
生徒:Yes, this is a pen./No, it’s not a pen, but it’s a pencil.
この時、“Yes.”もしくは”No.”では終わらず、センテンスで答えることを求められます。
このように、「文法が完成したセンテンス」で答えることを繰り返すことで、英語で考え、英語で反応するいわゆる「英語脳」が形作られます。
レッスンのメリット
五感を使って高める英語力
レッスン時には、ただ講師の質問を聞くだけではなく、図や写真のような視覚的な情報も使用します。
そのため、耳と口のほか目によっても情報の紐付けがなされ、体全体で英語のセンスを磨くことができるのです。
カランメソッドを正しいやり方で受けていれば、短期間で「英語脳」を手に入れる効果が期待できます。
ハードながらもストレスフリーな学習
また、生徒の文法や発音などの間違いは講師がその場で正してくれるので、すぐ適切な英語表現がわかります。
自分一人で練習していると、どうしても「ここが合っているか分からない…」という瞬間や、「正しいやり方が分からないけれど調べるのが面倒だから、後回しにしてしまう」とモヤモヤするときがあるものですが、このメソッドでは即座に正解がわかるので、学習中のモヤモヤが少なくてすみます。
スピードを求められ、難しい面もありますが、疑問を残さないという点でストレスがかからないのです。
カランメソッドの難易度
カランメソッドには「ステージ」という考え方があります。これはレッスンのレベルを表しているもので、ステージ1~12まであり、徐々に難易度が上がってきます。
効果を実感する期間はステージ3から
はじめに取り組むようなステージ1では、ごく単純なセンテンスが求められます。これは中学生程度の難易度に相当するといわれています。内容はとても簡単なので、小学生でも英語に慣れていれば答えられるかもしれません。
ステージ3あたりになると、そろそろカランメソッドに慣れてきて効果を実感し始める時です。
しかし、だんだんと要求される回答のレベルが上がり、ステージ6にもなるとかなり勉強した人でも難しく感じるかもしれません。
6以上のレベルでは、講師の質問文が長くなります。要求される答えも、ステージ1~2のころの単純な構造文の繰り返しとは異なり、基本の構造文を与えられながらも生徒自身がそれに付け加えて答えることになります。
この点は他の英会話のやり方と似ていますが、やはり決められたセンテンスの型から逸脱せず練習するところがカランメソッド独特のポイントです。
ステージ12までくると、ほぼネイティブと同等の能力が求められます。
聞かれている質問や使用する単語は難しくなくても、より複雑で長いセンテンスを返さなくてはなりません。
しかし、裏を返せばこのレベルにまで達した時には「ネイティブ並みのスピードと正確さで話す」力が付いているのです。
終わる頃には、「英語を話す実力がついた」ことを実感できているでしょう。
「効果あり」、それとも「効果なし」? カランメソッドの向き不向き
ここまでカランメソッドについてくわしく説明してきましたが、注意したいのは、何といっても自分の学習スタイルの好みにメソッドが合っているかどうかです。
これまでご紹介したとおり、カランメソッドは独特のレッスンなので、誰もがカランメソッドで英語を上達できるとは限りません。
人によっては「カランメソッドは効果なし」と感じてしまうこともありますが、「効果なし」になってしまう原因として、カランメソッドへの考え方や学習のやり方が合っていないことが挙げられます。
ここではカランメソッドが向いている人、向いていない人の特徴をまとめ、「効果あり」「効果なし」の差を比較しました。「自分にはカランメソッドが合っているのだろうか?」と疑問を持っている方は、ぜひ参考にしてください。
効果あり!カランメソッドに向いている人
講師の質問を聞き取れる程度のリスニング力があり、また単語の理解もできている人で、より高度な英語力を身に付けたいのであれば、カランメソッドは向いているでしょう。
言い換えれば、基礎力は身に付けた上で、さらに正確な文法や、ネイティブに近い「英語で考える」力をつけたい方におすすめです。
「英語で発言することに慣れるんだ」と考えることができれば、効果を実感しやすいでしょう。
たとえば、IELTSの試験などでスピーキング力が必要で、なおかつ高得点を狙いたいのであれば、カランメソッドで正確な文法での答え方を身に着けるのも一手です。IELTSの試験においては、文法の正確さは評価対象の一つだからです。
カランメソッドに向いている人の特徴
- 英語力について、ある程度の土台ができている
- 正しい文法で英語を話したいと考えている
- 集中したり、繰り返し練習することが苦ではない
効果なし?カランメソッドに向いていない人
「カランメソッドはスピーキング力向上に効果なし」だという話を聞いたことがある方もいらっしゃるかと思います。たしかに、残念ながらカランメソッドは一部の方には効果がそれほど期待できません。
カランメソッドは、講師の質問を聞き取るリスニング力や、ある程度単語やフレーズの意味を理解していることが前提です。そのため、0から英語を学び始めたばかりの初心者の方には向いていないかもしれません。講師の質問を聞き取れないからです。英語学習初心者であれば、まずは英語の基礎力をつけてから挑んだ方が良いでしょう。
そして、「早く上達したい」からと、無理に上級のレベルを受けるのもおすすめできません。自分のレベルに合わせた学習内容でないと、理解できずに挫折してしまうからです。基礎力がないにも関わらず、「早く上達できるから」と飛びついてしまうと、うまく成果が出せず「効果なし」という結果となってしまいます。
また、自由な会話でスピーキング力を伸ばしたい方も、カランメソッドは向いていません。自由形式の英会話では、生徒は好きなように受け答えできますが、カランメソッドでは決まった言い回しを繰り返し練習するものなので自由度が下がるからです。
たとえば、カランメソッドでは以下のような答えは評価されません。
講師:What is your favorite fruit?
生徒:Apple.
これがどうして評価されないのか、わかるでしょうか。「『好きなフルーツは何ですか?』と聞かれて、『りんご』と答えているのだから、正しいのでは?」そう思う方もいるでしょう。
この答えが評価されないのは、単語のみの解答だからです。
カランメソッドでは、単語のみのような不完全なセンテンスは評価されません。
常に、完全な文が要求されます。
完全な文とは何かというと、中学・高校で文型を学んだかと思います。
S(主語).V(動詞).O(目的語)…というような、英語の語順と要素ですね。
これの、最低でもS、Vが揃った文、英文として文法から逸脱せず完全に成立している文が完成した文です。
たとえば
I(S) work(V).
この文は完成した文です。主語の”I” 、もしくは動詞の“work”だけでは、文の要素が欠けているため、不完全です。
実際の日常会話であれば、単に”Apple.”でも十分に伝わる返答となりますが、これは能力として”It’s apple”などの完全文が作れることが前提となっています。ですからカランメソッドでは、何よりも完全文を作る能力を付けることを重要としているのです。
したがってカランメソッドで求められうる解答例は、以下のようになります。
講師:What is your favorite fruit?
生徒:It’s apple.
この” It’s apple.”は、“It(主語)” ”is(動詞)” ”apple(補語)”と要素が揃った文なのでカランメソッドの要求に沿った答えとなります。
このような答え方が苦手な人は、カランメソッド向きとはあまり言えません。「自然な会話ができるようになりたい」と考えているならば、「カランメソッドの効果なし」と感じてしまうかも。
そのほかにも、繰り返しの練習や短期間で一つのことに集中して学習するのが苦手な人も効果なしとなる可能性があります。
カランメソッドにあまり向いていない人
- 英語学習の初心者である
- 集中したり繰り返しの練習が苦手
- 自由に会話を楽しみたい
学習の助けに!教材やスクールの紹介
最後に、カランメソッドを学んでみたい方のために教材などツールをご紹介します。
テキストの他、 YouTubeやオンラインスクールのHPなどで視聴できる動画もありますので、カランメソッドに興味が湧いてきたらぜひご覧ください。
テキスト
Callan Method Organizationの公式HP他から購入できます。ペーパーバック版、ebook版があります。
以下のページから、テキストの紹介をチェックしてみてください。
動画
一部の内容は、YouTubeで視聴することができます。(2018年11月現在)
ただ、必ずしもCallan Method Organization公式のものではないことに注意してください。
「カランメソッドに興味はあるけれど、どんなものなの?」と思ったら、まずはこちらの動画で雰囲気を掴んでみてはいかがでしょうか。
ネイティブキャンプ英会話「カランメソッド レッスンの流れ」
こちらは、ネイティブキャンプ英会話のレッスンを紹介した動画です。
実際のレッスンを元に構成されているので、カランメソッド のやり方や特徴が詳しく分かります。
短いながらも丁寧な解説つきです。
同スクールでは、短期間で効果を確実に出すため、レッスン時間の7割が前回の復習に当てられるそうです。
反復学習を根気よく続けることで、英語で思考する力を実感できるのです。
QQイングリッシュ 「カランメソッド について」
QQイングリッシュのカランメソッド 紹介動画です。
レッスンの内容だけではなく、カランスクール本校の講師によるインタビュー付き。
オンラインレッスンでもカランメソッドは効果ありと述べています。
スクール
こちらにご紹介するのは、いずれもCallan Method Organizationの指導を受けた認定校で、オンラインで受講することができます。
「カランメソッド認定校」と謳っているスクールは多いのですが、中にはカランメソッドの認定を受けておらず、質のよくない授業を行なっているところもあります。そのようなスクールを選んでしまうと、本来は効果があるはずのメソッドも効果が実感できなくなってしまうので注意が必要です。
せっかく受けるレッスンが「効果なし」にならないよう、スクール選びは重要です。
ここでは、正式認定校である大手英会話サービスをご紹介します。
さまざまなプランが用意されていますが、ここでは特にカランメソッド用のプランのみ説明します。(料金等の情報は、すべて執筆当時のもの)
詳しい情報は、各スクールのHPをご覧ください。
ネイティブキャンプ
初めてカラン・オンライン・パートナーシップ・プログラム正式認定されたことで有名です。
認定校であるだけに、受講生からの評判が高い良質なレッスンが強み。
24時間365日いつでも受講できるプランを用意しているので、思い立った時にレッスンが受けられます。
7日間の無料トライアルが受けられるので、これで受講するかどうか決めてみても良いでしょう。
カウンセリングや英語力診断も受けられるので、「まずは自分のレベルを知りたい」という方でも安心です。
QQイングリッシュオンライン
25分、50分とふた通りの時間配分で、一般的な内容とビジネスに特化した内容のコースがあります。
日本人の苦手とされる冠詞・定冠詞の”a”、“the”の使い分けや、LとRの発音なども、徹底的に練習することで身につくそうです。
また、もしカランメソッドを始める基礎力がなくても、基礎力をつけるレッスンが別に用意されているので便利です。
「カランメソッドを習いたいけれど、基礎をつけてくれるスクールがない…。」という心配がありません。
まとめ
今回は、「カランメソッド」の特徴や効果について説明してきましたが、いかがだったでしょうか?
「短期間で、正確な文法で英語を話せるようになりたい」という方には、カランメソッドはおすすめです。
一方で、「基本的な力をつけたい」「自分の知っている文法や単語を駆使して英会話を習いたい」という方は、別の方法を探すのが良いでしょう。
どんな学習法においても言えることですが、何事にも向き不向きがあったり、「これさえやっておけば完璧」という魔法のような方法はないものです。
自分の学びたい内容であるか、あるいは自分に向いたやり方であるか注意しながら、楽しく学習していってくださいね。
この記事が、英語学習者の皆さんの助けになれば幸いです。