医療通訳士とは?
訪日外国人の増加に伴い、病院でも外国人を見る機会が増えてきました。
医療通訳士は、文化や言語の違いを理解し、日本語の話せない外国人患者が適切な医療サービスを受けられるように、病院や医師とのコミュニケーションをサポートするお仕事です。
言葉が通じなければ自分の症状を伝えることも、医師の指示を理解することもできません。
文化や宗教の違いを理解し、患者が自分の意思で適切な治療を受けられるように支援するのが医療通訳士のお仕事です。今後ますます需要が増えてきそうなこの資格ですが、まだまだ知名度が低いのが現状です。
まずは、医療通訳士というお仕事がどういうお仕事なのか解説してきます。
医療通訳士は言語の媒介者であり、文化の仲介者である
通訳士として一番大切なことは、「話し手の意図を理解して、正確に伝える」ということです。医療・保健における必要な知識や語彙を持ち、医療従事者と患者の橋渡しをするのが医療通訳士です。
正確に伝えるというのは、一字一句そのまま訳すということではなく、お互いの文化的・社会的な背景を踏まえたうえで、理解した内容に対して忠実に通訳するということです。
文化的・社会的相違は、時に医療従事者と患者の間でコミュニケーションの摩擦を起こすことがあります。医療通訳士は双方の違いを説明し、相互理解を深めるお手伝いもするのです。そのためには、両方の文化に対する深い知識と理解が必要になります。
医療通訳士に必要なものは何?
医療通訳士になるには、学校に通い技能検定試験を受け、資格を取るのがひとつの方法です。
医療通訳士には、英語などの語学力だけでなく専門家としての「知識」、「スキルと能力」、「倫理」が求められます。
以下に詳しく説明します。
知識
医療通訳士には、第一に、医療従事者と患者のコミュニケーションを円滑にする知識が求められます。健康や医療、コミュニケーションについて文化的、社会的な違いを理解し、医療における患者の権利について理解している必要があります。
同時に、医療・保健分野に関する基礎知識や関連用語、英語など患者の話す言語についても知識を持つことが求められます。独学で勉強することもできますが、資格を取るために学校に通い技能検定試験に挑むことが近道でしょう。
スキルと能力
医療通訳士に求められるスキルと能力は多くあります。医療通訳に必要な通訳技術は、対話型の逐次通訳です。母語と対象言語の高度な会話や議論能力はもちろん、医療現場での適切な対応や調整力が求められる場面も数多くあります。状況によっては事前の準備や情報収集も必要です。
通訳者は正確な訳を提供しなければなりません。しかし、正確に訳していても、当事者同士で勘違いが起こってしまうこともあります。それに気づき、対話全体の流れや目的を見失わないように修正する対応能力が問われます。
英語や中国語の需要が高いですが、フィリピンやベトナムからの移住者が多いのが現状ですので、学習者の少ない言語にも需要はあると言えます。
また、万全な体調で業務にあたれるように、普段からの健康管理や感染症予防、精神的な安定にも気を使う必要があります。
倫理
医療通訳士になるには、すべての利用者に対して中立で公平な態度を取るということはとても大切なことです。知識や能力ももちろん必要ですが、すべての人を尊重しプライバシーに配慮することを忘れずに、専門職としての意識と責任を持つことが求められます。
また、文化的・社会的な背景から、医療従事者と患者の間で誤解や衝突が起こってしまった時に、通訳者が間に入りお互いの文化を説明して相互理解を促すことを文化仲介と呼びます。文化仲介はどうしても必要な場面でのみ、利用者の同意を得てからするようにします。
医療通訳士はあくまでも通訳者であり、患者の代理人ではありません。自分の勝手な判断で問題解決をしようとしたり、どちらかの擁護をすることは、本来の医療通訳士の役割ではありません。医療通訳士は、両者の意思の疎通をスムーズにするという第一の目的を見失わないようにしなければなりません。
医療通訳士の需要と給料
在留外国人が増えてきていますが、医療通訳士の需要はどのくらいあるのでしょうか?また、給料はどのくらいでしょうか?
需要
医療通訳士の需要は高く、現状ではまだまだ医療通訳士が足りていない状況です。
法務省の発表によると、平成29年末の在留外国人数は256万人以上で、前年末に比べ約18万人(7.5%)増加し、過去最高となっています。
国籍では中国が一番多く約73万人、次いで韓国約45万人、ベトナム、フィリピン、ブラジルと続きます。
そのため、医療通訳士の需要はこれからますます高くなっていくと予想されます。
医療通訳士の給料
医療通訳士の給料はどのくらいでしょうか?
在留外国人が増加している反面、医療通訳士は職業としてまだまだ広く認知されていません。医療通訳士を常駐させている病院はまだほとんど無く、地域の国際交流団体やNPO団体がボランティアとして行っていることが大半です。
そのため、医療通訳士の給料は時給1,000円程度のことが多く、他の通訳の仕事と比べても低いのが現状です。医療通訳士になるには学校に通い技能検定試験を受けて資格を取ることを考えると、現状の給料は努力に見合わないように感じますね。給料やその他の待遇など、早めの対策が望まれます。
医療通訳士になるには?
医療通訳士になるには、まず自分の専門の言語で通訳として経験を積むのが一般的です。医療の現場では、命に係わる突発的な出来事が起こる可能性もあり、緊急の場面に遭遇しても冷静に対応できるかどうかが試されます。
通訳の学校に通ったり会議通訳など他の通訳である程度の経験を積んで、どんな場面でも落ち着いて対応できるようになってから医療通訳士の道に進むのでも遅くはないでしょう。
それでも、早く医療通訳士として仕事をしたいというのであれば、養成講座を開催している学校などに通って技能試験を受けるという方法があります。
医療通訳士の資格は国家資格?
医療通訳士の資格は、国家資格でしょうか?
現状は、医療通訳士の資格は国家資格ではありません。
医療通訳の資格は、独自の検定試験を実施している機関がありますので、そちらを受験して資格を取ります。
しかし、在留外国人が今後も増える予想から、国家資格にして医療通訳士の給料や待遇が見直される日も近いかもしれません。
医療通訳技能検定試験
一般社団法人日本医療通訳協会が、医療通訳技能の客観的指標となる検定試験として実施している試験が医療通訳技能検定試験です。
重症の病気にも対応できる、医療全般に関わることができる医療通訳1級と、健康診断や検診に対応可能なレベルの医療通訳2級があります。
試験は、筆記試験の1次試験と、面接でのロールプレイング試験の2次試験があります。
対応言語は英語・中国語・ベトナム語・韓国語で、その他の言語はお問い合わせを受け付けています。
医療通訳技能認定試験
医療・保健分野における対話コミュニケーション能力や語彙、通訳技術、倫理などの医療通訳者に必要な知識とレベルを認定します。厚生労働省「医療通訳育成カリキュラム基準」に基づいた技能認定試験です。
対象言語は英語と中国語で、1次試験は筆記とリスニング、2次試験は面接が行われます。合格者には医療通訳専門技能者(英語)、または医療通訳専門技能者(中国語)の称号が付与されます。
医療通訳士の学校・養成講座にはどんなものがある?
国際医療通訳アカデミー
英語と中国語で養成講座を開催しています。週一回×5ヶ月の本科コースと、通うのが困難な方のための通信コースがあります。その他にも試験対策講座や、英語上級者を対象にした実践コースなど、レベルに合わせて学べます。
日本医療通訳アカデミー
2018年7月から、「中国語医療通訳養成講座」を開催しています。
経験豊富な講師から、実際の医療現場で通用する技術を学びます。医療業界未経験からプロへ育てる養成講座です。
まとめ
在留外国人の増加に伴って、今後注目を浴びるであろう「医療通訳士」という仕事についてご紹介しました。
医療通訳は国家資格なのか、医療通訳士になるにはどうしたらいいのか、需要や給料、学校から技能検定試験まで、ご理解いただけたかと思います。
現時点では知名度も低く国家資格でもないため、これだけで生計を立てていくのは難しいかもしれませんが、ケガや病気という緊急の場面で医療従事者と患者の橋渡しをするとてもやりがいのある仕事です。もし、現在通訳の仕事をしている、または通訳の仕事をしたいと思っている方は、医療通訳士を目指してみるのも良いかもしれませんね。